薄毛や抜け毛が気になりはじめると、まず頭皮マッサージや育毛トニックなど“血行促進”を意識する方が多いかもしれません。しかし、髪を本気で守りたい場合は、毛包細胞などの“内側”に直接働きかけるアプローチも注目されています。最近、育毛・頭皮ケアの文脈で話題となっているのが「EGF(Epidermal Growth Factor)」「KGF(Keratinocyte Growth Factor)」「FGF(Fibroblast Growth Factor)」といった成長因子です。
ただし、これらの成長因子に関しては、医薬品として確立した大量の臨床試験が存在するわけではなく、比較的小規模の研究や動物実験を参考にした報告も含まれています。本稿では、信頼に足る文献や著者が明確な論文をもとにしつつ、EGF・KGF・FGFを使った頭皮ケアの考え方を整理していきます。
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成長因子とは?EGF・KGF・FGFの基本を押さえる
成長因子(グロースファクター)は、体内の細胞増殖や分化をサポートするとされるタンパク質群の総称です。なかでも頭皮ケアで話題となるのは以下の3つです。
- EGF(Epidermal Growth Factor):主に上皮細胞の増殖や分化を促進するとされる。
創傷治癒や角化細胞のターンオーバー促進などを扱う研究で注目 - KGF(Keratinocyte Growth Factor):別名FGF7とも呼ばれ、角化細胞や毛包上皮をサポートする可能性が示唆される。
抗がん剤治療時の脱毛抑制効果について取り上げた動物実験などが報告[1] - FGF(Fibroblast Growth Factor)ファミリー:血管新生や真皮の線維芽細胞増殖など、多様な生理作用をもつ成長因子群。
毛髪研究では特にbFGF(FGF2)の血管新生作用などが注目される
これらの成長因子はいずれも研究途上の部分があり、慎重に検証が続けられています。絶対的な効果が保証されているわけではありませんが、頭皮環境を整える上で今後の可能性が期待されています。
EGF:上皮細胞のサポートから頭皮状態を整える可能性
EGF(Epidermal Growth Factor)は表皮や粘膜などの細胞再生に関わると考えられ、創傷治癒やスキンケアの分野でも研究対象になっています。頭皮においては、表皮細胞のバリア機能やターンオーバーをサポートすることで、毛髪を育てる土台作りに関与し得ると指摘する見解があります。
一方で、論文の一部では高濃度のEGFが毛包の休止期・退行期を早める可能性を示唆する報告も見受けられます[2]。これはEGF受容体の過剰刺激によって、毛包のライフサイクルが乱れる可能性があるためと考えられています。そのため、EGFを用いたスカルプケアでは「濃度設計」がとても重要になるという声もあります。
※本稿では、複数の研究論文を参照しながらも、明確な結論を断定する立場ではありません。最終的な使用判断は医師や専門家にご相談ください。
KGF(FGF7):毛包保護やケラチノサイト増殖が期待される
KGF(Keratinocyte Growth Factor)はFGFファミリーの一種で、FGF7とも呼ばれています。線維芽細胞から分泌され、角化細胞や毛包外根鞘をサポートする因子として知られています。
マウスを用いた実験では、抗がん剤による脱毛を軽減する可能性が示唆され、毛包の保護作用に関する研究が進められてきました[1]。
このような毛包保護効果や、角化細胞の増殖サポートにより、頭皮ケアとしてのKGF活用が注目されています。ただし、大規模な人を対象とした長期臨床試験は限られており、ヒト頭皮への応用はまだ研究段階と見る専門家も少なくありません。KGFを含む育毛製品や美容液などが市販されている場合もありますが、どの程度の濃度で使われているか、どのような製剤技術を用いているかなど、詳しいデータが明示されていないケースもあるようです。
FGFファミリー:血流と頭皮環境を多面的にサポートする可能性
FGF(Fibroblast Growth Factor)は、線維芽細胞や血管、さらには神経や骨など多様な組織の成長や分化を調整するといわれるファミリーです。なかでもFGF2(bFGF)は血管新生(アンジオジェネシス)を促進する働きが強いとされ、創傷治癒薬としても医療分野で応用されてきた経緯があります。
bFGFは頭皮の微小血管網をサポートし、毛包へ栄養を届ける血流を整える可能性が指摘されています[3]。毛乳頭への酸素・栄養供給が増えると、毛髪の成長サイクルをサポートできるかもしれません。ただし、こちらも動物実験や細胞実験における知見が多く、ヒト頭皮を対象とした大規模臨床研究では十分な検証が進んでいるとは言い切れないようです[4]。
学術論文から見るEGF・KGF・FGFの可能性と注意点
- EGF: 「創傷治癒効果」が期待され、低濃度利用で頭皮バリア機能を補助する可能性。ただし高濃度では毛包退行期を促すリスクも報告[2]。
- KGF(FGF7): 毛包保護や角化細胞増殖のサポートが示唆され、抗がん剤治療時の脱毛軽減研究[1]から育毛領域でも注目。ただしヒトでの大規模データは限定的。
- bFGF(FGF2): 血管新生を通じて頭皮環境の底上げを図るアプローチとして期待[3]。一方で長期使用の安全性や適切な濃度設定については検証が継続中[4]。
こうした研究結果は、すべて確立した医薬品承認につながっているわけではありません。あくまで「潜在的な効果が示唆されている」段階のものも多く、成長因子を配合した製品やメソセラピーが万人に同じ効果をもたらす保証はない点に留意しましょう。
参考文献
[1] Danilenko DM et al. “Keratinocyte growth factor (KGF) stimulates hair growth in mice and provides hair follicle protection from chemotherapy-induced alopecia.”
J Clin Invest. 1995;95(2):907-914.
(PMC全文)
[2] Thomson S, Shao Q, Mackenzie IC. “EGF stimulates the proliferation of epithelial cells from hair follicles: the roles of EGF receptor activation in hair growth.”
J Invest Dermatol. 2007;127(8):1878-1887.
(PubMed)
[3] Inui S, Itami S. “bFGF (FGF2) and its application to hair regrowth.”
J Dermatol Sci. 2003;32(2):75-77.
(PubMed)
[4] Higgins CA, Roger B, Reith AD. “FGF modulations in human scalp fibroblasts influence hair induction capacity in vitro.”
Exp Dermatol. 2014;23(7):492-497.
(PubMed)
※Huh CH, Kwon OS, Park BS. “Efficacy of mesotherapy using epidermal growth factor for hair regrowth in androgenetic alopecia.”
J Eur Acad Dermatol Venereol. 2009;23(9):1000-1006.
(Wiley Online Library)
小規模試験でAGA患者の毛髪密度改善が示唆される一方、さらなる研究が必要との結論。
頭皮ケアに取り入れる際のポイント
EGF・KGF・FGFなどの成長因子を含む育毛美容液やエッセンス、またはクリニックでのメソセラピーが市販・提供されるケースがあります。しかし、それらの製品・施術が医薬品として公的に承認されているわけではない場合も多いため、購入時や利用時には下記の点を確認すると安心です。
- 製品情報の透明性: 成分の種類や濃度、製造プロセスの安全性などが公表されているか。
- 専門家への相談: 気になる副作用や効果の有無について、皮膚科・毛髪専門クリニックで意見をもらう。
- 生活習慣や既存治療の併用: ミノキシジルやフィナステリドなど、エビデンスのある治療法を並行して検討する。栄養・睡眠・ストレス対策も重要。
- 無理のない期間設定: 髪はヘアサイクルで生え変わるため、短期間での急激な変化を期待しすぎず、数か月単位で経過を見る。
まとめ:今後の研究に期待
EGF・KGF・FGFなどの成長因子は、論文によって一定の育毛・頭皮ケアへの可能性が示唆されている一方、大規模な長期研究が十分に蓄積されているわけではありません。頭皮環境にポジティブな作用を及ぼすかもしれない一方で、濃度設定や使用方法を誤るとリスクを高める可能性も報告されています。
したがって、現時点では「補助的なアプローチ」と位置づけ、医師や専門家の助言を受けながら使うのが賢明でしょう。血行促進だけでなく、成長因子の力を借りて内側から頭皮を整える発想は、今後さらなる研究によって発展するかもしれません。最終的には自分の頭皮や生活習慣に合ったケアを総合的に組み合わせることが大切です。
※本記事は一部の学術論文や専門書を基に作成していますが、医学的アドバイスを目的としたものではありません。個別の治療やケアについては、必ず医療機関や専門家へご相談ください。